#75
ルポ アメリカの医療破綻
ジョナサン・コーン 東洋経済新報社 (2011)
数年前に、アメリカのマイケル・ムーア監督の
シッコ
という映画を見たことがあります。 現アメリカの医療制度の弊害を映し出した映画で、彼らしい自虐的ユーモアで包んで悲惨ながらも思わず笑ってしまうけれどもよくよく考えたら笑い事じゃないよね、と思ってしまうような場面の数々が映し出され、監督ご一行がアメリカが最大限に嫌っているキューバに潜入してみたらキューバの医療は無料だった、というオチがついてました。
それはそうと、この本はそんなアメリカの医療制度の現在について、様々な問題点に迫ったルポです。
アメリカの医療というのは消費者(つまり患者)のためではなく、医療・保険業界のための仕組みにすっかり出来上がっているのだなあというのが感想。
アメリカでは病院はあまりにも高額な医療費を患者に請求し、払えないとなると容赦なく追い出す、あるいは最初から受診や治療を断る。保険会社は複雑なしくみでなるべく顧客に保険料を支払わなくて済む抜け道を執拗に探して支払いを拒否する。保険契約にしても、少しでも保険会社の損になりそうな要因があると契約を断る。
日本でも少なからずそのようなケースがあるのかもしれませんが、アメリカの場合はかなりあからさまなようで、病のせいで人生が狂い、死に追いやられる人が多いようです。何しろ、お金がある人、お金があっても保険加入の条件に合う人でなければ保険に入れませんし、保険の範囲もそれぞれですから、保険でカバーできるとは限りません。日本のように何かあったらとりあえずどこかの病院で診てもらえるとは限らないようですね。
そんなアメリカも業界の圧力を押し切ってオバマ大統領が国民皆保険の実現に力を入れてますが、この本の最後の章で、国民皆保険の良い例として日本を取り上げ、「日本では医療サービスを受けるのに行列を作る必要はないし(でも待合室で待ってますけどね)「備え」も充実している。」と述べてます。
日本に住んでいればそれも当たり前に感じて、いろいろ不満を並べてしまいますが、実はしっかりしたありがたい制度で、無くしてはいけないものだと思いました。
でも日本のTPP参加の動きで、その日本の国民皆保険も場合によっては破綻する可能性が出てきました。これからどうなるでしょうか。
2011-12-7
カテゴリー:医療と健康/世界の社会問題