読書の時間 #385
原発一揆 警戒区域で闘い続ける“ベコ屋"の記録
針谷 勉 サイゾー (2012)
福島第一原発事故により被災者となりこれまでの生活を放棄しなければならなくなったのは、発電所の周辺住民だけではありませんでした。
家畜たちもまた、原発事故による「被災者」になりました。
しかも、家畜は避難することができない。
半ば家族のように家畜を育てていた牧畜業の方たちにとってそれは、「家族の見殺し」にも値する苦しい思いだったに違いありません。
しかも行政は、これらの家畜を殺処分にせよと言う。
これほど悔しいことがあるでしょうか。
著者の針谷さんは、原発近くで牧畜業を営み牛を育てていた一人の男性を追います。
あまりに理不尽な事態に東電に乗り込んだり、法解釈で何とか牛たちの殺処分を逃れようとしたり、それが難しくなると牛たちを他の地域へ逃れさせて飼育を続けたり、渋谷の街頭でこの悲惨な現状を訴えたり。
泣く泣く殺処分に応じた業界仲間たちとの間に軋轢も生じます。
写真の中の、殺処分にされた、あるいは給餌できずに餓死した動物たちの生々しい姿は、あまりにも不自然で、動物たちの命を軽んじた人間による動物たちの殺戮という言葉が頭に浮かびます。
動物ならば、人間でなければ、こんなことがあってもいいのか?他に方法は無いのか?
頭の中で、そんな問いが繰り返されます。
そして自ら「避難民」でありながら自分の生活をも投げ出して牛たちのために奔走した、この男性、吉沢さん。
吉沢さんのこのような必死の行動を無駄にしてはいけないと、これから将来同じことが繰り返されてはいけないと、強く思うのです。
2015-9-29
カテゴリー:日本の社会問題/原爆・原発・原子力