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読書の時間 #389

低線量汚染地域からの報告 チェルノブイリ 26年後の健康被害

馬場 朝子 山内 太郎 NHK出版 (2012)

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 大きな災害となり、多くの方が被災した福島第一原発事故。

 その事故による様々な問題にどう対処するか。
 特に、周囲に拡散された放射能に対して。

 29年前に起こったチェルノブイリ原発事故がその参考にできる唯一の事例です。
 福島第一原発事故直後、多くの方がチェルノブイリ原発事故の被害を受けたベラルーシ、ウクライナなどに渡り視察等を行ったようですが、残念ながら公共のレベルではそれが活かされいるとはいえません。

 チェルノブイリ原発事故26年後である3年前、馬場さんと山内さんがウクライナに渡り、住民の健康被害や様々な対処について現地で聞き取りをしました。

 低線量汚染地域という、低レベルの放射能汚染に見舞われた地域。
 国際機関は、チェルノブイリ原発事故による放射能が、被曝した周辺地域の住民の健康に悪影響を及ぼすとは認めていません。
 しかし実際には、住民の多くの人たちに健康面で何らかの大きな問題を抱えているという現実があります。
 がんだけではなく、甲状腺疾患、循環器系疾患、消化器系疾患など。
 大人たちだけでなく、子どもたちも。
 その影響は事故当時産まれていなかった第二世代にまで及びます。

 「私は13、14歳の子どもたちが淡々と、そして次々に自分の健康状態の悪さについて語ることに愕然とした。・・・18人の生徒のうち、自分は元気だと答えた生徒は4人しかいなかった。」(p.9)

 被災直後のデータの不足や改ざんなどで正確な情報が不足しているために、国際機関が必要としている因果関係の証明の仕方では証明ができないのだそうです。
 そこで現地の専門家たちは、「放射線量は異なるものの、その他の点では同様な集団同士の違いを調べる方法」(p.40)をとります。

 もし国際的な機関により低レベルの放射能と健康被害に因果関係があるという結論が出るとしたら、それは遠い将来のことでしょう。
 現地の人たちはそんな結論を待っていられないし、今目の前にあるこの健康問題の大きな課題に国としても取り組まなければならないほど、状況は深刻なものだったのです。

 「チェルノブイリ原発事故の数年後から、子どもたちに病気が見られるようになりました。これを事故と関係づけることも、関係づけないこともできます。でも当時はっきり言われたのです。『すぐに影響は出ないかもしれないけど、15〜20年後したらみな感じるようになりますよ。健康状態が悪化してきます』と。それは正しかったのです。」(p.177)
 コロステン市の市長の言葉。

 科学的に放射能と健康被害の因果関係が証明されていないとしても、原発事故が起こり、その後健康が悪化した人が増えたというチェルノブイリ原発事故による低線量汚染地域での現状をしっかり見つめ、日本でも同様のことが起こるかもしれないという想定し、対応策を講じるべきではないかと、このレポートを読むと思うことでしょう。

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カテゴリー:原爆・原発・原子力世界の社会問題
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