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#151

虐待されていた里子と向き合う 〜「ジョディ、傷つけられた子」から

2014-11-8

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ジョディ、傷つけられた子 里親キャシー・グラスの手記
キャシー・グラス著 塩川 亜咲子訳
中央公論新社

 今回は珍しく本の紹介です。



 8歳という小さな女の子が、これほどまでに辛い思いをなぜしなければならないのか。


 そんな言葉しかすぐには出てこないほどに、衝撃的な内容でした。

 英国にて、何人もの里子を育てた経験のあるベテランの里親キャシーさんが里子「ジョディ」との暮らしを綴った手記です。



 多くの里親の元を転々としながらキャシーさんの元にたどり着いたジョディ。引き受けてくれる里親ももうおらず、キャシーさんが引き取らなければ養護施設に入れるしかない、と頼まれて引き取った子ども。
 ジョディはまさに問題児でした。
 勝手な行動をとる、ひどい言葉を吐く、暴れる、自傷行為をする。

 それでもキャシーさんはジョディのありのままを認めようとします。
 一緒に暮らすうちにジョディとの会話の中から断片的に分かってきた、ジョディの驚くべき過去。

 それは、実の父からの性的虐待が日常的に行われていたことでした。しかも実の父ばかりでなく、家族ぐるみで。
 キャシーさんがジョディから聞き出した虐待の様子は生々しく、想像を絶するほど。
 そうした実の家族との生活の中でジョディの人格が荒んでいった様子が浮かび上がってきたのでした。

 キャシーさんより前にジョディを引き取った里親たちさえもジョディが「実の父から性虐待を受けていた」ことに気づかず、さらに、里子を委託する里親委託協会でさえ把握できていなかったのでした。あるいは気づいていても気づかなかったふりをしていたかもしれません。キャシーさんがジョディの異常さに気づき、丁寧に糸をたどるように聞き出し、大きな問題として取り上げたからこそ、明らかになったこと。

 何度も挫折しそうになりながら、それでも地道にジョディとの関係をつなごうとするキャシーさん。
 そうするうちに徐々にジョディはキャシーさんに心を開いてゆきますが、虐待の影響で発症した精神的な病を集中して治療する必要があると判断され、いつか再び一緒に暮らすことを約束しながら本の最後は別れることになります。



 昨今では児童虐待についてよく報じられるようになりましたが、その実態についてさほど詳しくは知ることはできません。
 多くの虐待の中でも、この本で明かされる虐待は特殊なケースとは思いますが、それでも子どもがどのような境遇で心に傷を負い、行動が荒れていくのかということについて窺い知ることができました。
 しかし、この本が伝えようとしているのはそのような虐待の実態ももちろんですが、このような子どもたちへの社会的対応にどのような欠陥があるのか、そして何よりも、養育がとても困難な子どもに里親としてどう接していったか、そして子どもがどう変わっていったか、にあると思います。
 ジョディが8年もの間要注意リストに載っていたにもかかわらず何の調査もされず、原因として、実親の脅しなどが原因でジョディを担当するソーシャルワーカーが十分に対応できず、結果的に担当が頻繁に入れ替わっていたことが挙げられていました。
 問題解決が困難な子どもの対応はどうしても後手に回ってしまう現実がありました。


 しかしやはり私がこの本でとても心を動かされたのはは、ジョディと向き合うキャシーさんの姿でしょう。

 ジョディが荒れ、お前なんか嫌いだと言われても私は好きよと好意を示す、ジョディの行動に改まった部分が見えたら積極的にほめる、ジョディが実親との生活を思い出し自分が悪いんだと責めてもあなたは悪くないんだよと慰める。その一方で、やってはいけないことはきちんと説明し、諭す。
 ばらばらになった、あるいは間違って組み立てられたピースを直せるところから少しづつ直してゆくように、確かめながら、根気よくジョディにつき合い、「普通の」子どもに戻そうとしてゆくキャシーさんの姿は、「母」そのものでした。

 本の中で最後は結局離ればなれになってしまうのですが、ジョディが次の施設に移った後にキャシーさんのもとに届いた手紙に記されていた、ジョディの言葉。
 「・・・ずっとここにいられたらよかったのに。たくさん悪いことをしてごめんなさい。でもしょうがないの。どうしてもやっちゃうの。わたしの面倒を見てくれた人のなかで、わたしのことを怒らなかったのはキャシーだけだよ。わかってくれてるんだよね・・・」
 この言葉に、ジョディがキャシーさんに心を開くようになった理由が集約されているように思いました。


 里親としての経験豊富なキャシーさんだからこそこのようなことが出来たのであろうとは思うものの、この本に綴られたキャシーさんのジョディへの接し方は多くの里親さんたちにとても大きな希望や勇気を与えてくれるように思いました。

 里親さんにはぜひ読んで欲しい本です。
 そして、里親さんになることに関心のある方にも。




カテゴリー:こどもとともに

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