#172
【読書】家族進化論
山極 寿一 東京大学出版会
人間以外のお猿さんはみんな集団で暮らしているのかと思っていましたが(ニホンザルのイメージ)、お猿さんの種類によってもぜんぜん違うのですね。
霊長類の「家族」について、特に類人猿、中でもオランウータン、チンパンジー、ボノボ、ゴリラあたりを取り上げて比較してますが、それぞれ好む食べものが違うし、そのために同じ森の中でも棲むエリアが違う。または、同じ食べものがあっても食べる時期が違う。
それぞれが競合しないようにうまく暮らすようにできているんですね。
オランウータンは単独で暮らすし、ゴリラは比較的まとまった群れで暮らすし、チンパンジーは頻繁に出入りする群れで暮らす。家族の形態がそれぞれ違っています。
暮らし方が違うから、子孫の残し方も違ってくる。
メスはいかに安全で守られ、そして気に入ったオスの子を産み育てるか、そしてオスはいかにメスの気を引き、自分の子孫を残すかが、それぞれのお猿さんの生態に合わせて異なっている。人間のように基本的に同じペアで一緒に暮らす種類はあまり無いようです。
そして人間。サバンナという過酷な環境に進出したために、他のお猿さんとは異なる暮らしを始めます。
サバンナは肉食獣など敵が多い。そのために出産間隔を縮め、地上で食物を素早く採り持ち帰るために二足で歩く。過酷な土地で生きるため知恵をつけ、危険から身を守るために、他の類人猿に無い「協力し合う」という行動を身につけます。
そう、つまり、今の高度な人間社会を築き上げることができたのは、過酷な環境を生き抜くために身につけた「協力し合う」という社会性のおかげとも言っていいのではないでしょうか。
山極さんが最後に締めくくる言葉が心に残りました。
「繁殖における平等性と共同の子育てこそが人間の心に平穏をもたらす源泉であった。現代の社会もその原則を失ってはならない。それが音を立てて崩れ落ちたとき、私たちはもはや人間ではなくなっているだろうと思う。」
2012-9-26
カテゴリー:自然科学