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#267

歌集 トリサンナイタ

大口 玲子 角川書店

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 小さい子どもを持つ一人の母が、仙台に暮らしていた頃から、東日本大震災で被災し、福島第一原発事故の影響から逃れるためにはるばる宮崎に母子で移り住む頃までの日常を語った短歌。

 一連の短歌は、あるものはその背景も分からず何を言い表そうとしているのだろう?と思ったりしますが、前後の詩の流れなどで想像するのもまた楽しく、一行に凝縮されたそれぞれの歌から、様々なストーリーが頭の中で展開され、ごつごつとした感じの文体で心を揺さぶります。

 時には子の持つ神秘性に驚き、時には自分自身の不甲斐なさに落ち込み、時には立ち止まって暮らしの中の風景に目を留める。

 印象的だったのは、最近起こった子どもの虐待や子どもを巻き込んだ心中のニュースに重ねた心情を歌ったもの。そこからは、決してこれらの出来事は遠くで起こった出来事ではなく、いつ我が身に起こってもおかしくない「紙一重の出来事」であるかのような心情が綴られます。
 それから、震災での被災、子を連れての九州、宮崎への移住。震災により目の前に表れた非日常な様子の数々、夫との別れ、西へ急ぎ九州を転々とし、宮崎に落ち着くまでのめくるめく展開。

 それぞれのページに刻まれた各遍の詩の中で、大口さんが背に見え隠れしている心の十字架を常に感じているようにも見えました。

2013-8-2

カテゴリー:詩集
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