#318
誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち
黒川 祥子 集英社 (2013)
この本を通して頭に浮かぶのは、なぜ?なぜ?という言葉。
親は、子どもたちを守るべき存在である親は、なぜ子どもたちを守らず、なぜ子どもたちにこんな仕打ちをしたのか。
ここにとりあげられる5人は、親から、あるいは児童養護施設から虐待を受けた子どもたち、あるいは虐待を受けて育ち大人になってなおその後遺症に悩む大人。
そして、この子どもたちを育てる里親たちがこの子たちに感じたのは「普通ではない」ということ。
普通ではありえない行動、言動。ゆえに予測すら不能な、これからのこと。
里子を何人も育てたベテラン里親でさえ、「こんな子初めてだ。」と言わしめるシーンは、虐待を受けてきた子どもたちの社会への順応がとてつもなく大変であるという深刻さをを物語ります。
近年、家庭内の児童虐待が増え、虐待により子どもたちが死亡するというニュースが珍しくなくなってきましたが、ニュースにすらならない隠れた虐待が想像以上に地獄である様子が、被虐待児を保護する里親たちの話から浮かび上がってきます。
この5人のうち4人は何とか周りの大人たちや子どもたちと信頼関係を築いてゆくのですが、中でも第四章で取り上げられる「明日香」は結局里親の血のにじむような努力も報われず、その様子は本当に涙が出そうになるくらいでした。
それでも、短い期間ではあったけれども幸せな時間を過ごさせてあげたのだという里親の希望的な気持ちに淡い光を見ました。そう、どんな結果に終わったとしても、子どものためにしてあげたことは、少しも無駄ではないのだと。
「一般に「親の、子への愛は無償だ」と言われるが、虐待を見ていく限り、それは逆だとしか思えない。子の、親への愛こそが無償なのだ。」
児童虐待に見る親子の姿は、この一文に全てが集約されているといっていいでしょう。
しかし、「おわりに」に書かれた文章は、それでもこのような子どもたちに希望を与えるような内容で、
「希望へと向かう「分かれ道」はどこにあるのか。この里親の女性が明快に答えた。「根っこが張れる場所が、あるかどうか」」
という言葉には、このことを意識していればどんな子どもであれきっと大丈夫なのだという安心感を感じました。
2014-5-8
カテゴリー:福祉/日本の社会問題/暮らしと子育て
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