#324
悲しみを生きる力に 被害者遺族からあなたへ
入江 杏 岩波書店 (2013)
2000年、世田谷区で一家4人が殺害された「世田谷区事件」。
10年以上経った今も事件は未解決のままです。
入江さんはこの事件の被害者である家族の遺族です。
そして、その悲しみの中でどう過ごしてきたかを綴っています。
被害者側であるにもかかわらず警察に加害者としての疑いをかけられたような尋問で憔悴しきる、偏見や噂でそれまでの人間関係が破壊される、世間の目が怖くなりごく普通の生活が困難になる・・・
被害者遺族の気持ちというのは、自分の愛する人を失った悲しみ、だけではない。
それどころか、全く予想もしなかった様々な境地に立たされて、その「自分の愛する人を失った悲しみ」意外の思わぬ感情に左右され、振り回され、それらに神経を消耗し、疲れきってしまうということに驚きました。
被害者遺族になるというのは、こんなにも複雑に人間の感情が絡み合い、それを解きほぐすのに「悲しみを癒す」ことよりも遥かに膨大なエネルギーを要するのですね。
その過程の中で、このような気持ちからいつか解放されることを信じながら悲しみと向き合い、そして同じように「愛する人を亡くした」人たちのために一冊の絵本を完成させ、そして入江さんは自分の体験を話してきました。
このような自らの経験をさらけ出してくださった入江さんには頭が下がる思いです。そして入江さんが問い続けてきた「悲しみとのつき合い方」は、私たちにとって人と人とのつながりを取り戻し希望を生み出す力になると思うのです。
2014-6-17
カテゴリー:生き方
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