#374
あの頃の軍艦島
皆川 隆 産業編集センター (2013)
明治期の日本の産業革命の遺物の一つとして世界遺産に登録されようとしている、長崎の軍艦島。
観光ツアーも組まれ、海から船などでその姿を見ることができるようですね。
軍艦島の写真集もいくつかありますが、それらのほとんどは、美しささえ感じられるような廃墟となった今の姿。
そしてこちらの本は、かつて実際に軍艦島に住み、一住民として少年・青年時代を過ごしながら住民たちにカメラを向けた方の写真集。
海でも移っていなければ、ここは多摩ニュータウンか?と思うような、どこにでもある団地の一風景です。ただ、コンクリート造の建物にも木の建具が用いられたり、昔ながらの木造の建物がいくつかあったりと、時代を感じさせはしますが。
あの小さな島に、これだけの人が住んでいたのか、と思うような、人のにぎわい。
小さな子どもからお年寄りまで、かつてからそこにこの街が存在していたかのような、たたずまい。
この特殊性の強い街は、何か1つの実験施設にも見えます。
たとえばアメリカのバイオスフィアのような。
子どもの頃、本で読んだ、火星に移った人類が作った街のような。
団地で遊ぶ子どもたち、炭坑で働き定時で戻ってきたばかりの男たちのホッとした表情、そして夫や子どもたちを支えるために動き回る女性たち。
住んでいる人たちのどの姿も、生き生きとしているように見えます。
それにしても、とても多くの人が、この小さな島に住んでいたんですね。
数字を聞いて想像するのと、実際に映像を見るのでは伝わるものが違います。
この島の人たちが皆、家族のようにも見えます。
2015-5-27
カテゴリー:写真集/日本の文化と歴史