#375
キャパの十字架
沢木 耕太郎 文藝春秋 (2013)
写真家ロバート・キャパが発表した、あまりにも有名な写真、「崩れ落ちる兵士」。
スペイン戦争時、銃弾に当たった兵士が崩れ落ちる決定的瞬間を撮った写真として、キャパの写真の代名詞ともいえる写真ですが、沢木さんはこの写真に隠された「謎」を追います。
本当に「崩れ落ちる兵士」は撃たれて崩れ落ちたのか?
本当に「崩れ落ちる兵士」はキャパが撮ったのか?
キャパはなぜ生前、この「崩れ落ちる兵士」の写真について、ほとんど語らなかったのか?
沢木さんがこの「1枚の写真の真実」を追い求めるためだけに、様々な視点からその状況を検証します。
キャパの生い立ちと、写真家としての活動。
同じ頃、同じ場所で撮影されたとされる他の写真からの、当時の状況の推測。
当時この写真が掲載された様々な雑誌ごとの、掲載された写真に見られる差異。
さらには沢木さん自らがその戦闘の舞台となった現地へ赴いての、現場の地形や風景の見え方の確認。
崩れ落ちた兵士の姿勢から見た、崩れ落ちた原因の検証。
他の写真を拡大しての、撮影の角度や、陰に隠れた兵士の動きの推測。
そして当初キャパと撮影を同行した女性写真家ゲルダの動きの推測。
などなど・・・
この「たった1枚の写真」のために、そこまでするのか!と正直驚きましたし、沢木さんが推測したキャパとゲルダの撮影の位置の手描きの位置図や、カメラの種類を踏まえた写真の写り方の検証などからは、研究者のようなこだわりが感じられ、沢木さんがこの1枚の写真に注いだエネルギーが1冊の本にぎゅっと凝縮されています。
そしてこの「たった1枚の写真」の検証からは、キャパという時代の寵児が、苦悩しながら時代を駆け抜けていったであろうその後ろ姿が見えました。
2015-5-31
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