読書の時間 #376
あと1%だけ、やってみよう 私の仕事哲学
水戸岡 鋭治 集英社 (2013)
九州にいらっしゃった方は、独特なデザインの列車をあちこちで見かけた方も多いかと思います。九州を1週する豪華クルーズトレイン「ななつ星 in 九州」も話題になりました。
JR九州の多くの列車のデザインを手がけてきたのが、ドーンデザイン研究所の水戸岡さんです。水戸岡さんの列車デザインはJR九州の列車に多く採用され好評を得たことにより、1つのブランドになりました。
水戸岡さんのイメージは、華麗なるアーティスト系デザイナーとは逆の、情熱職人系デザイナーと言ってもいいかもしれません。
より多くの人の目に留まり、公共の資産ともなるパブリックなデザインにこだわり、より多くの人を幸せな気持ちにするためのデザインを心がけます。
列車のデザインとは無縁だった水戸岡さんですが、国鉄民営化直後のJR九州より、これまでにない特急列車のデザインを依頼され、それ以降今日まで継続してJR九州の列車のデザインを手がけることになります。
JR九州の列車デザインを通して常に新たなチャレンジをしてきた水戸岡さんですが、やはり読み応えがあるのは「ななつ星 in 九州」のデザインを依頼され、取り組んだ時の話でしょう。
何しろこれまで日本国内にさえなかった初めてのタイプの列車。大きな責任が水戸岡さんに伸し掛かりますが、ネジ1本にまでこだわり、自らが提案する最高のデザインを形にするため、頑なな現場にも粘り強く働きかけ、現場も巻き込んで一つ一つの課題を解決し形にしていく様子は爽快ですらあります。
反対していた関係者をも協力者にしてしまう水戸岡さんの「お客さんを喜ばせるデザインを実現する」という信念の強さに感銘しました。
「適材適所さえ考えれば、どの色も形もちゃんと役割があるというのが私の考えかたなのです。」とおっしゃり、キズものの自然素材をも愛おしく扱う姿には、一つ一つの「モノ」への愛情を感じます。
お金が無ければ無いなりのことが出来るし、作る人・育てる人次第でそれ以上のもっと素晴らしいものができる。「あと1%だけ」に込められた水戸岡さんのデザイン哲学がこの時代にマッチしたからこそ、水戸岡デザインは花開いたとも言えそうです。
2015-6-17
カテゴリー:経済・ビジネス/生き方/交通/まちづくり・コミュニティ