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#368
ビッグイシューの挑戦
佐野 章二 講談社 (2010)
ビッグイシューという雑誌をご存知でしょうか?
東京や大阪などの大都市の路上や辻で、この雑誌を掲げている方を見かけます。
この雑誌はホームレスの方が販売するもので、その雑誌の売上げの一部(といっても半分以上)が、販売するホームレスの方の利益になるというもの。
これを掲げて販売しているのがどこぞの怪しげなオジサンたち(失礼!)が多いので、最初は「1冊下さい!」というのに勇気がいりますが、2〜3度買うとその後は、販売者を見かければ足がそちらに向いてしまうのでフシギです。
しかもこの雑誌、内容が濃くてなかなか面白い。書店やキオスクに置いてあっても遜色無いどころか、あの内容でこの値段は安いと私は思ってます。
このビッグイシュー、元々はロンドンで始まり、現在は世界数カ国で展開されていいますが、このビッグイシューを日本に持ち込んだのが、この佐野さん。
元々ホームレス支援の事業を考え、模索していた佐野さんですが、自ら立ち上げたNPOの女性スタッフがこのビッグイシューに興味を持ったことがきっかけで、日本版ビッグイシューを立ち上げることに。
しかしその道のりは平坦ではなく、諸外国のホームレス事情との違いから日本でこの仕組みがうまく行くか未知数だったこともあり実現が危ぶまれましたが、創始者のジョン・バード氏の後押しもあり、日本版として日本に受け入れられる形を模索しながらビッグイシューの存在は徐々に広く知られていきます。
そして佐野さんが販売員となる様々なホームレスと接するうちに、日本のホームレス支援の政策の乏しさ、新たなタイプの若年ホームレスの様子が浮き彫りになってきます。
この「ビッグイシュー」、「ボランティア」など一部の市民や行政だけがホームレスとの接点を持つというこれまでの形ではない、街を通行する普通の人たちがホームレスと接する、しかも「商品を売る、買う」という日常生活の一活動として、という新しい形を生み出しました。
そして思うのは、私たちはホームレスに無関心だとばかり思っていたが、実は何かをしてあげたい、またはそういう機会があれば接したい、という気持ちを潜在的に持っているのではないか、ということ。
この本の中に出てくる、販売者とお客さんとのいくつかのエピソードが、それを物語っているような気がします。
この仕組みを作ったジョン・バードという人はすごい人だと思いますが、これを、ホームレス支援が諸外国ほど一般的ではない日本で広めた佐野さん、そして何よりも日本でビッグイシューの販売をすることに当初躊躇していた佐野さんを説得したスタッフの水越洋子さんの熱意、が素晴らしかった。
ビッグイシューは、見えないレールが敷かれて日本に入ってきた、そんな気がしてなりません。
2015-4-12
カテゴリー:経済・ビジネス/日本の社会問題/福祉
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