#92
つみほろぼし
2013-3-25
私が小学生の高学年のころ、我が家に一人の女の子が一緒に暮らすことになりました。
名前はMで、私より一つ年下。
児童養護施設からやってきました。
明るく活発な女の子。でも気が強くてちょっとわがまま。
家族が一人増えて、にぎやかで楽しい暮らしが始まりました。
しかし時が経つにつれ、我が家に徐々に慣れていったMは、最初は影をひそめていたそのわがままぶりがだんだんと増長し、家族としばしば衝突するようになりました。
母ともケンカ、私ともケンカ、私の弟ともケンカ。
ひどい時は家の中で大暴れし、母と取っ組み合いとなり、心配した隣の家のおばさんが仲裁に入ったこともありました。
口を開けばどなり合い、もうMがいなくなってほしいとすらそのころ私は思いました。
エスカレートするMの荒れように両親は手に負えなくなり、約3年後、Mは家を出ることになりました。
元の家族に戻ったとき、Mがいなくなってせいせいしたことを今でも覚えています。
Mは別の家庭に預けられ、その後児童養護施設に戻ったと聞きました。
*****
その後Mのことはずいぶんと忘れていたのでしたが、それなりに大人になって、どういうわけか、いつの日か家庭を持ったら里子を育てたい、という気持ちが強くなってきたことに気づきました。
私はうろ覚えですが、カミさんと結婚した時、私は里子を育ててみたいと言い、それに対しカミさんは、実の子もできていないのに何を言うのか、と思ったとカミさんは言います。
結婚はしましたが、私たち夫婦になかなか子どもはできず、様々な不妊治療を試みましたが、成果は上がらないまま。
結婚して約6年たったある日のこと。
カミさんは突然「里子を育ててみたい」と言い出しました。
その時は本当に驚きました。
里子を育てたいと思っても、結局長い時間里子と一緒に過ごすのはその育ての母。
多くの負担を強いられるカミさんが納得しなくては到底無理とはなからあきらめ、その頃は里子を育てたいと思っていたことすらすっかり忘れていました。
カミさんは、もう自分は子どもを産めるような気がしなくなった、それよりも他に自分を待っている魂があるのではないかと思った、というようなことを言ったのでした。
市の広報でカミさんがみつけた里親研修会の参加募集にタイミングよく応募し、約半年の研修の後里親として認定され、そのわずか2ヶ月後、ある1歳半の女の子を児童相談所から紹介されました。
里親として登録されても里子を紹介されるのに1年待ちはざらと言われたのに、異例の早さでした。
それは本当に不思議なもので、何かそのような方向にレールが敷かれているのじゃないだろうか、とすら思いました。
*****
ある日両親に「里子を育てようと思う」と告げたとき、両親は黙り込み、母がぽつりと一言「大変だよ」と言いました。
両親にとっても、Mのことが大きな心の傷になっていたのはよく分かりました。
私が知らなかった、最後にMと分かれたときの様子を語ってくれた後、再び黙り込みました。
そして母は、Mを私たち兄弟と同じように育てようと思ったといいました。
つらい過去を背負いながらそのまま大きくなったMをうまく育てるのは難しかったかもしれません。
しかし父母は自分たちでできる精一杯のことを試行錯誤でやったに違いありません。
当時はおそらく里子を育てるための社会的なフォローの体制が不十分だった時代。
愛情に飢えていたMはわがままを通してそれまでの過去で得られなかった愛情の穴埋めを求めていたのかもしれません。
しかも子どもというのは残酷なもので、私たち兄弟は結託してMと対立したのでした。
しかし年を経るにつれ、あのとき子どもだったとはいえ私がMに対して行なった「仕打ち」を後悔するようになりました。
自分は何てひどいことをしたのだろう。
家族として、兄弟として接してあげるべきだったのに。
Mは家族の中で孤立し、疎外感をどこかで感じていのでしょう。
*****
里親登録し児童相談所から女の子を紹介されて約半年、毎週のように重ねた女の子との面談の末、彼女は我が家で暮らすことになりました。
それが、今我が家族の一員として暮らしているムスメ。
ムスメには、家庭の中で安らかに暮らすということを目一杯味わい、彼女が大人になって子どもができたら、その子にも同じようにしてあげて欲しい。
それが、一番の願い。
Mとの暮らしがあったからこそ、気づかされたこと。
それを無駄にしたくはないと思います。
その時経験したことを、事情があって実の親と暮らすことのできない子どものために役立てたい。
それが、私のMに対する、せめてもの罪滅ぼし。
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