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#34

フォトジャーナリスト小原一真氏とアート集団Chim↑Pom水野俊紀氏が見た福島第一原発の作業現場

 昨日、ワタリウム美術館の「ひっくりかえる展」を見に行ってきまして、アウトローすれすれの芸術活動をしている様々な方々の作品を見てきました。中でもこの展覧会の作品群の要となっているのが、アート集団Chim↑Pomです。

 彼らは若者6人のグループで、福島第一原発の事故後、渋谷駅の岡本太郎の壁画「明日の神話」に原発事故の絵を貼り付けて警察沙汰になったニュースが話題になりました。
 そのニュースを聞いて、警察は甚大な被害を出した東電の家宅捜索もしないのに、これしきりのことで警官を出動させて事情徴収かよと思ったものです。

 彼らの作品は今回初めて見ましたが、素人っぽさと勢いの良さが気持よく、言ってみれば悪戯の延長のような感じでありながら社会的メッセージを持っており、刺激的かつなかなか面白くて今後の動向も楽しみです。

 それはともかくとして、その後に参加したトークがなかなか興味深いものでした。
 フォトジャーナリストの小原一真さんとChim↑Pomの水野俊紀さんがメインのトークで、Chim↑Pomリーダー卯城竜太さんがナビゲート。

a0034o.jpgtwitter @chimpomworks より
 そもそも私がこのトークショー参加を申し込んだ理由は「アートと福島第一原発の関連が気になったから」。ワタリウムのストアであるオン・サンデーズで行われました。

 小原さんは以前会社員として働いていましたが、東日本大震災直後フォトジャーナリストに転身したという方で、事故の数ヶ月後に福島第一原発内に入り取材をします。
 一方水野さんはChim↑Pomの活動費を稼ぐために2カ月間福島第一原発の作業員として働きます。

 小原さんは撮影した福島第一原発内の写真や作業員のポートレートを元に話されました。
 原発20km圏内にはマスメディアが全く入って来ず、小原さんはJビレッジという20km圏外の原発作業の拠点から作業員たちと一緒にバスに乗り込み、中を撮影したり作業員たちといろいろな話をしたそうです。

 作業員の多くは福島県の人で、原発事故の影響で仕事が無くなったので作業員として働いている人、事故前から原発作業員として関わっていたが経験のある人が残らないと事故の収束はできないだろういうことで作業員を続けている人など、それぞれの事情があって福島第一原発で働いているとのことでした。
 そういう話を聞きながらスクリーンに映し出された作業員達のポートレートを見ると、ニュースなんかでは「作業員」としてひとくくりに見てましたけど、それぞれに生活があり、事情があり、人生があるんだなあと思いましたね。

 そして衝撃だったのが、作業員たちが線量が15μSv/h(東京の約100倍)の中でマスクを外して食事をしたり仮眠したり休憩したりしている現実だったとおっしゃってました。
 そうか、よくよく考えたら現場では他に選択肢はないんですよね。私たちの想像もつかない世界。


 水野さんは実際に作業員として働き、日給1万4千円で、もっと稼げるかと思ってたのにそうでもなかったとおっしゃってました。(私が先日読んだ「検証 原発労働」という本では、東電から元請けには一人当たり日額5〜10万円が出ており、差額は元請〜下請会社がピンハネしてるって書いてましたよ)

 スクリーンに映し出された、水野さんが携帯のムービーで撮った免震重要棟の中の光景は、外部から放射性物質が入らないような処置がほどこされているようですが普通の土木工事の現場事務所と変わらないような感じで、そこを白い防護服を着ながら行き来したり休んでいる作業員たちの光景が映し出されて、それがかえって物々しく異様に感じました。
 それがまた携帯のちゃっちいムービーなだけにやけに生々しく見えました。こういう映像はマスメディアではもちろんのこと、ネットですら流すのは難しいでしょうね。

 水野さんは、作業員はやくざやホームレスの人たちが送り込まれているというのを聞いた事があるのでそういう人たちが多いのかなと思ったら、自分が会った人たちはいたって普通の人だったとおっしゃってました。


 作業員の健康管理について。
 水野さんは、被曝の線量も作業に入る前にAPDという機械をつけ、被曝の累積線量を測るそうで、数値は聞けば教えてくれるそうですが、その数値が作業員にどう生かされるかが全くわからない、ホールボディカウンターで測った数値がどんな評価すればいいのかが分からない、放射線管理者に聞いても知らないようだった、と。

 この仕事に就く時に放射線教育を受けるそうなのですが、いままでのマニュアルをそのまま使っており、例えば放射線量によって区域がABCとランク分けされており移動するときの手順が教えられたが、実際は作業する場所は全部汚染されていますからと言われ、じゃあどうしたらいいの?と思った、作業員の汚染をどう防ぐのかという考えが少ないとおっしゃってました。

 小原さんは、基準について、震災前は放射線量が300cpm(cpmは放射線測定機に1分間に入ってきた放射線の数)だとすぐにでも病院に行かされたのに、震災後は2500だろうが10000だろうが、大丈夫だと言われると聞いたとおっしゃってました。

 うーん、東電もこんな事態になること自体想定してなかったから、誰も指導できないし、今までの基準にこだわってたら作業が進まないってことなんでしょうね、きっと。作業員はもう作業機械としか見られていないのでしょうか。


 原発以外の話では、福島では土日に子供がいる親は県外に行って遊ばせ、一日数時間でも放射線量の少ないところで「保養」させているのだそうで、何らかの理由で福島県から出られない親は子供に対して申し訳なさを感じているようだ、と小原さんはおっしゃってました。 

 そして小今後について、作業員の人たちが普通にテレビに出たり話が出来たりという環境ができることを望んでいる、そして、子供達は環境を選ぶ事が出来ず、それは大人の責任であり、子供が自由に遊べるようになってほしい、とおっしゃってました。


 テレビをあまり見ない私はテレビで原発労働者をどのように扱っているのかは分かりませんが、このようなことはもっといろいろな人に知らしめる必要があると思うのです。そして福島に住む人たちの現実も。

 しかしテレビはもう期待できない気がします。小原さんや水野さんを含めたChim↑Pomの方々のような、草の根的な人たちがこのような話を広めていくしかないのかなあというのが感想です。
 そしてそれを聞いた私のような言葉の下手な人間が何とか細々と他の人に伝える手伝いが出来れば、と。

 それにしても、事故初期の映像とその時の話はとても貴重なものでした。
 事故直後に事故現場に飛び込んだこのお二人には敬意を表したいと思います。そして、復旧に励んでいる福島第一原発の原発労働者の方々にも。

ワタリウム ひっくりかえる展(7/8まで)http://www.watarium.co.jp/exhibition/index.html
Chim↑Pom ウェブサイト http://chimpom.jp/
小原一真 ウェブサイト http://kazumaobara.com/

a0034_2o.jpg小原さんの写真集
Reset - Beyond Fukushima: Will the Nuclear Catastrophe Bring Humanity to Its Senses?
しろやぎや本舗の本棚にも書きました)

2012-4-22

カテゴリー:芸術のあたり原発

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