#42
アラブ+現代美術 とは?
先日、ヨメとチビが宮崎から帰ってきまして、旅疲れも何のその、「せっかく三人そろったのだからどこか行こう」とヨメが言いますので、雨でも楽しめるところ、ということで、前から行きたいと思っていた「アラブ・エクスプレス展」@森美術館 に行ってきました。
実はこの日がこの企画展の初日だったんですね。
いつもは会期末ぎりぎりの駆け込みで美術展を見に行くことが多い私としてはとても珍しいことなのですが、そのせいなのか、かなりすいてました。しかも見たところ入館者の3割くらいは外国人だったような気がします。
私はアラブ諸国へは行ったことがありませんので、アラブ=イスラム、そしてどことなく「宗教的に厳しく、娯楽が制限されている」というイメージが強く、庶民レベルでのささやかな娯楽はあったとしても「現代美術」が存在するとは想像だにしませんでしたので、とても興味をそそられました。
ということで、行ってみました。一部を除き写真撮影OKということなので、写真を撮りまくってきましたが、その中からいくつか紹介。
カイロ・ウォーク モアタッズ・ナスル(エジプト)
壁一面に貼られた、カイロの街の写真。街中を散歩しているような気分になります。雑踏、店の商品、人々・・・写真でヨメとチビが眺めてますけど、チビは「何これー母さん」と言いながら興味津々な様子。
羊たちの沈黙 アマール・ケナーウィ(エジプト)
エジプトの人って、こんなこともするの?と、ちょっとびっくりした作品。映像作品ですが(スクリーンをちょっと斜めから撮ったので見にくいですね)突然右斜め上の建物の入口から四つん這いの男たちの列が、道路を横切って行きます。「硬直化した社会と権力の理不尽さ」を描いているそうで、ケナーウィさんはこれが原因で警察に捕まり三日ほど拘束されたそうです。やっぱり体を張ってたんですねえ。
私の父が建てた家(昔むかし) サーディク・クワイシュ・アル・フラージー(イラク)
これは本当に息を飲むほど、美しい作品でした。映像作品なのですが、右の人と左の家の中をベースにいろいろ絵が描き込まれ、アニメーションのようにどんどん変化していく様は目を見張るものがありました。
チビはヨメと一緒に先に見て、「もう一回見る」と言って私とまた見ました。
国外に移住したアル・フラージーさんが再びイラクに帰ってきたときに、残された父のスーツから様々な昔の想い出がよみがえったことが由来しているそうですが、その楽しかった想い出とそれが過去となった今がよく表されて、淡い郷愁を感じさせます。
私をここに連れて行って:思い出を作りたいから アトファール・アハダース(レバノン)
何でしょうか、このベタベタなキッチュな感じは。大好きです。こんなこと、やっちゃうんですね。突き抜けたような思い切りの良さが気持いい。
「レバノン人の成功への憧れや物質的な欲求をデジタル技術で可視化」しているのだそうです。風刺みたいなものなのでしょうが、何となく親近感が湧いてしまいます。
その脇にあった、このコーナー。これらの作品を作品集として本にしたものが置かれており、ヘッドホンから流れる環境音楽を聴きながらこれを眺める、というもの。
うちのチビさん、気に入ったようです。ずーっと聴いてました。
道 アブドゥナーセル・ガーレム(サウジアラビア)
地味な作品ではありますが、何となく気になったので。完成したばかりの橋に洪水災害で住民が避難したが鉄砲水により流されてしまい、残骸として無惨な形で残ったものにアラビア文字で「道」と書いたものなのだそうです。その哀れさ、寂しさは伝わってきました。
無題1(「都会の目撃者」シリーズより) ハリーム・アル・カリーム(イラク)
写真がナナメになってますけど、本当はまっすぐです。チビが「アタシが撮りたい!」と言うのでハイハイと撮らせたら、結構面白い感じに撮れていたのでそのままです。
全体的にぼやけたポートレート。口はふさがれ、目だけがくっきりと描かれています。この眼差しが何かを強烈に訴えているように見えて、脳裏に焼き付きます。
「価値観の目まぐるしい変化や不確かさ、戦争によって引き起こされる恐怖や弾圧、暴力性といったものの暗示」とあります。被写体は少年かと思いましたが、女性だそうです。
軽めのファンダンゴを踊ったら ゼーナ・エル・ハリール(レバノン)
ふふっ、これは面白いコラージュですね。かなりおちゃらけた感じで、パンツ一枚ムキムキの男性の写真やピンクのピストルなどが貼ってあるし、こんなことして大丈夫なの?と思いましたが、かなり強烈な風刺のようですね。
数枚展示されていたうちの一枚ですが、「レバノンに混乱をもたらした政治家の肖像を、同国民の夢を叶えるイメージに段階的に変化させる」のだそうです。やってられないよー、楽しいこと考えよーぜ、とでも言いた気ですね。
全体的に見て、かなりメッセージ性の強いものが多かったように思います。政治のこと、社会情勢のこと、そして暗に宗教のこと、など。
アラブがウリの企画展ですからどうしても「アラブ」という色眼鏡で見てしまいますが、意外と「アラブの芸術家の作品」と言われなければそうと分からないものも多いような気がしました。
「アラブ」とは言っても、芸術の目で見てみると、日本とも、世界の他の国とも、そう変らないのだなあと思い、かえって親近感が湧きました。
アラブの国々、行ってみたくなりました。
アラブ・エクスプレス展 10/28まで。
2012-6-21
カテゴリー:芸術のあたり