#60
在来作物にもっと光を
在来作物ってご存知でしょうか?
読んでそのまんま、「在来からある作物」ってことなんですけど、代々受け継がれ作り続けられてきた作物です。これらの作物の多くが存続の危機に立たされています。
それはなぜでしょうか?
在来作物は農家で育てられその土地その土地で長年息づき、そのうちに環境に適応した作物。
昔は農家はそれぞれの地域のこれらの在来作物を育てていましたが、経済発展とともに生産性を良くするために新しく品種改良された作物を作るようになり、それと比べて生産性に劣る在来作物を農家がつくるのをやめてしまったためです。
「よみがえりのレシピ」という映画を観ましたが、映画で最初に出てきた外内島(とのじま)きゅうり。
たった一人、作りつづけてきた農家さんが来年は作るのをもうやめようと決心していた年に、地元の漬物業者がぜひこのきゅうりを作ってほしいと農家さんにお願いし、外内島きゅうりは絶滅を逃れ引き続き作られることになります。
その昔、このあたりではどの農家でも外内島きゅうりを作っていたそうですが、やがて長距離の運送でも痛みにくく形が揃いやすく日持ちもしやすい、現在で出回っているようなきゅうりが普及し始めるとともに、形も不揃いでぶつけると痛みやすく日持ちもしない外内島きゅうりを農家はつくるのをやめてしまい、姿を消していくことになるのです。
しかしこの外内島きゅうりの良い点。それは、味がいいこと。
漬物屋さんのおかげもあって外内島きゅうりが再び作られ始め、小学校でも教育の一環として栽培しますが、それを子供たちが実際に収穫して食べるシーンがあります。
子供たちに先生はまずそのままで食べてみて、どうしてもマヨネーズがつけたいならつけてもいいよと言います。
さて子供たち、そのままがぶりとかじります。そして一瞬「?」という顔をして「にがーい!」。でも口のなかでもぐもぐしているとそのうち皆「おいしーい」と言うのです。そしてまた一口、がぶっといくのです。
その子供たちの嬉しそうな顔。そのシーンでは誰もマヨネーズを欲しいという子供はいませんでした。
外内島きゅうりの他にも、藤沢かぶや宝谷かぶなどは、皆が作るのをやめてしまったけれども、それぞれたった一人、毎年作ってるから作り続けてきたとか、自分がつくりつづけなければ種もなくなり、二度と食べられなくなってしまう、という理由で細々と栽培されつづけてきたもの。
他にも芋や大根、枝豆やごぼうなど、消えつつあったのが再び復活した様々なご当地野菜が登場します。
そしてこの山形の地でイタリアンレストラン「アル・ケッチャーノ」を経営しているシェフの奥田さんと、山形大学で焼き畑農法を研究している江頭さんで、幻となった山形の在来作物を見つけ出し、奥田さんは創作イタリアンとしてよみがえらせます。
レストランに招待されて、自分が育てた在来野菜が今まで見たこともない華やかな料理としてテーブルに現れたのをみた栽培者さんの驚きといったら。そして他のお客さんも、とてもおいしいと舌鼓を打ちます。
奥田さんは、料理本のレシピは東京で出来上がったレシピだから東京に入って来る野菜用に考えられたレシピ、朝とれた野菜を料理するには、レシピの根本から変えなければ、本当に生きた料理にならない、と言います。
旬の短い期間しか採れず、地元でその季節季節にしか食べられない野菜の料理に、全国からのリピーターも多いそうです。
こうして一つ一つの在来作物を通して人の輪も広がっていきます。食を通したコミュニティの新しい形です。
ところで、いま市場に出回っている作物のほとんどが、種苗会社が作っている「F1種」というもの。これらから採れた種をまいても同じ作物はできません。言ってみれば「一代限り」、種の生産もその種苗会社でなければできません。
それに対し、在来作物の種は固定種とも言って、採取した種をまけば再び同じものが収穫できます。つまり、誰でもその種を採種して、撒いて、今までと同じ作物を得ることができるのです。
横道に反れますが、「食べる」という側面だけで言えばF1種でも固定種でもどちらでも良いように見えますけれども、世の中の作物が種苗会社が販売する「F1種」ばかりだと実はとても懸念される側面があります。
たとえば、「モンサントの不自然な食べもの」の中でも指摘されていたことですが、種苗会社がモンサントなどのように巨大バイオ企業に買収されると、日本の作物は遺伝子組み換え作物しか手に入らなくなる可能性があるということです。
高額な特許料により農業は崩壊し、食が支配されて選択肢が少なくなる可能性があります。そこでますます国内の農業が衰退し食糧を海外に頼った場合、他国に輸出ストップを切り札として外交圧力をかけられる恐れもあるのです。
自動車やテレビが買えなくても死にはしませんが、食べ物が買えなくなったら死んでしまいます。
日本は得意の工業で稼いで、食料は他国から調達すればいいなどというのは、想定外を想像できないおめでたい話で、一概に言えませんが、輸出作物の生産のために畑を使い果たし自国の食糧の生産を止めてしまった国の食糧事情の悲惨さから学ぶ必要もあるかと思います。
食糧としての作物には、疫病や天災など何らかの原因である作物が一網打尽になった場合のリスクを減らすためにも多様性が必要です。
そのためにも、種苗会社ではなく農家や個人が採種し再び育てるのが可能な在来作物を残し広く利用する必要性の側面があると個人的に思うわけです。
少々固い話になりましたが、それは置いておいて、この映画を見てると、ついつい顔がゆるんでほっこりした気持になります。おいしそうな野菜と料理の数々、それを食べる人たちがいい顔していること。途中からずっとおなかが鳴りっぱなしでした。
おいしい!という表情は見ている人を幸せな気分にしますね。
多くの在来作物が復活していろいろな作物と、料理が楽しめるようになるといいなと思ってます。
うちに帰ってさっそく、近所の八百屋で売ってた山形名産おかひじき。
なぜかその、近所の八百屋には山形の野菜がときどき売っています。
よみがえりのレシピ http://y-recipe.net/
2012-11-14
カテゴリー:ライフスタイル/フィルム