#341
猟師の肉は腐らない
小泉 武夫 新潮社 (2014)
福島・茨城・栃木にまたがる八溝山地に住む猟師の義っしゃん。
小泉さんは、義っしゃんと東京の居酒屋で出会い、その後故郷八溝に戻って猟師をしている義っしゃんを訪ね、数日共に過ごしながら義っしゃんの猟師生活を体験します。
義っしゃんは主に猪を捕って暮らしていますが、猪の他にも、岩魚などの川魚、蝉や昆虫の幼虫、蝮に至るまで、実に様々なものを採っては、八溝を訪れた小泉さんにごちそうします。
小泉さんは義っしゃんの猟や食糧となる生き物の採取に同行し、その様子をつぶさに観察し、義っしゃんからいろいろと教わりますが、次々に披露される「知恵」とそれについての説明は明快で軽やかで、義っしゃんの方言丸出しの語り口が相まって痛快でもあります。
食べられる物を「採る」だけでなく、それを無駄無く使い、犠牲となった生き物に感謝する。猟に使う銃にさえ、魂が宿ると畏敬の念を持つ。
人間社会だけでなく様々な生き物が暮らす自然界全体への配慮を備えた技術。
改めて、人間の過去の歴史で培われた、自然の恵みを有効に活用した人間の知恵というものに驚嘆させられます。科学が進歩したと言っても、これまでの歴史が育んできた人間の知恵にくらべたら儚く見えます。
ここにあるのは、この大地がずっとある限り使える知恵なのですから。
義っしゃんが「うめー」と言って自分で採った様々な獲物を食する姿。まさに、「美味しいものを食べるために生きる」というシンプルでこの上なく贅沢な生き方を、この山奥でなさっている義っしゃん。
「・・・俺はない、この八溝の空気、山、川、谷、木、花、土、水、生き物、ぜんぶ好きなんだあ。だがらよ、そいつらと毎日イラレっからよ、一人で居るなんて気はまったぐしね。・・・」
世話好き・酒好き・そしてプロフェッショナル。
それにしても、義っしゃんの人懐っこい人柄がよく表れていて、好感が持てます。
2014-10-4
カテゴリー:日本の文化と歴史/伝統技術
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