読書の時間 #391
歌集 桜の木にのぼる人
大口 玲子 短歌研究社 (2015)
前作「歌集 トリサンナイタ」で、福島第一原発事故により仙台から宮崎に移り住む様子と、子を持つ母親の心情を綴った大口さん。
本作では、宮崎に移り住んでからのその後の暮らしを綴ります。
宮崎の各地を訪ね歩いたときの風景、出来事。
成長してますます磨きがかかる息子さんの茶目っ気ぶり。
より深く見つめるようになった自らのキリストへの信仰、そして心のうちの葛藤。
ようやく落ち着いた暮らしを取り戻したのでしょうか、少し肩の力が抜け、日常の細やかな出来事にまで目を向けられるようになったように感じられます。
と同時に、ようやく慣れた宮崎での生活の中で、遠く離れた東北被災地への揺れ動く思いは、まるで遠く離れた地に住む子を案ずる母のような心情にも感じられます。
しかしその中でも、大口さんとその家族の人生を大きく変えた原発への鋭い眼差しは変わらず、その言葉は見えない矢となって放たれ、読む者をヒヤッとさせます。
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大口玲子さんの本
・歌集 トリサンナイタ
2015-11-3
カテゴリー:詩集
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