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#199

夜と霧

ヴィクトール・E・フランクル みすず書房


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 第二次大戦中に、ドイツの強制収容所に収容された心理学者が描いた、収容所での様子と被収容者たちのその心のうち。
 東日本大震災後に仙台の本屋さんで売れ、それがきっかけで全国に読者が広まったと聞きました。

 戦争というものはそういうものなのかもしれませんが、収容所暮らしが長くなるにつれて、人間的な感覚がどんどん失われる様子が描かれます。

 おそらく収容所で行われたことはすさまじくひどいものだったでしょうが、この本では目を背けたくなるほどの残酷な描写は少なく、それはこの本での描写は主にそこにいる人たちの心の動きに焦点を当てようとして、最低限その状況説明に必要な描写にとどめようという配慮にも見えました。

 徐々に希望が見えなくなって恐怖心で固くなった心にも、人間というのはその心の隙間になんとか人間らしい感情を少しでもよみがえらせたいと思うものなのだと感じました。

 ヴィクトールさんはあるとき、想像の中で妻と会話し至福の気持ちになるという体験をします。そこで、どんな過酷な目にあっても、自己の中の精神的な想像は誰にも奪うことができないものだと気がつきます。

 この収容所生活でヴィクトールさんが得たものは大きく、特に「生きる意味を問う」「苦しむことはなにかをなしとげること」「なにかが待つ」という文は、現代社会で私たちが人生を送る上で気持ちの支えになるのではないかと思いました。 

 一方で「人間」というものについて言及した「人間とは、人間とはなにかをつねに決定する存在だ。人間とは、ガス室を発明した存在だ。しかし同時に、ガス室に入っても毅然として祈りのことばを口にする存在でもあるのだ。」という言葉にははっとさせられました。

 解放の日、喜んでいいのかどうか分からず戸惑う被収容者たちの、氷が溶けるように固くなった心が溶けてゆき、徐々にその喜びを確認してゆく様子が印象的でした。

2012-12-26

カテゴリー:思想・哲学・心理世界の文化と歴史
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