#272

佐倉 統　新潮社

　「便利」は人を不幸にする、と断定したタイトルをつけていますが、便利を追い求めた科学技術は果たして人を幸福にするのか不幸にするのか。

　佐倉さんはそれを追究するために、様々な人に意見を求めたり、いろいろな角度から考えを巡らせたりします。
　便利さを追い求めた科学技術の限界が露呈したのがあの３月１１日の原発事故ではないか？
　飼い馴らすことが難しくなるまでになった科学技術。生活の中に取り込まれ、気づいた時に不便と感じても社会構造として後戻りしたり別の道に反れるのが難しい。
　便利によって人は幸せになるのかどうか。

　原発を始め、便利さが共同体に及ぼす影響、一つのモデルとして究極に便利な島と便利さから取り残された島の比較、機械化されたモノに対する人の反応、日本とヨーロッパの公共の比較に見る、追い求める便利さの違い、そして日本が得意とする科学技術のパッケージ化によって得るもの失うもの。
　佐倉さんは多方面からの考察でその姿を現そうとしています。

　そして、「便利」は人を不幸にする、というタイトルになっていますが、この問いに結論はありません。そう、便利によって不幸になる部分はあるでしょう、しかしその感じ方は人によって違うし考え方も違う。

　しかし、「便利は人を幸福にするか不幸にするか」と考えることは、今私たちが置かれている便利という環境を見直し、これからの私たちの生活の中での「便利」のあり方を考えるいいきっかけになりそうです。

2013-8-15

カテゴリー：思想・哲学・心理／科学技術