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#377
張り込み日記
渡部 雄吉 乙一 祖父江 慎 ナナロク社 (2014)
2006年、神保町でイギリスの古書店バイヤーによって、とある写真のオリジナルプリントが発見されました。
その写真が、渡部雄吉さんが撮影した、この本「張り込み日記」に掲載さている一連の写真。
その後2011年にフランスの出版社から「A Criminal Investigation」として出版され、日本でもオリジナルネガフィルムからプリントした写真集「張り込み日記」(roshin Books)が刊行されます。
そして、この二つの写真集を元に、ナナロク社からの「映画のような写真集に」という依頼で作家の乙一さんがディレクションしたのがナナロク社版「張り込み日記」です。
何がすごいかというと、端的に言うと「モノクロの写真を並べただけなのに、迫力のある刑事もののドラマになっている」ということ。
写真を並べただけ、というのは少し語弊がありますが。
この写真は実際に昭和33年に茨城県で起こったバラバラ殺人事件を捜査する二人の刑事の姿を追ったものですが、数ページにこの事件についての説明が挿入されています。言わば、写真でストーリーを追っていくときのヒントみたいなものです。
しかしその説明も最低限の僅かなものであり、それだけでこの二人の刑事たちの姿がよりリアルになっているのです。
それと、戦後間もないころのバックの風景が、まるでよく出来た映画のセットのようでもあるのです、よくよく考えてみるとこれはとてもおかしな話なのですが。
当時の社会状況の中に渡部さんが持ち込んだ「写真の眼」がそれだけ先進的だった、ということでしょう。
写真集の中の主人公である二人の刑事が商店などに聞き込みする姿、向こうが霞むくらいのタバコの煙の中で関係者たちが話し合う捜査本部、刑事が駅や列車の中で人々を観察する様子・・・
この刑事たちの様子の撮影を、よく警察は許したなあ、と思います。昔はそれくらいおおらかな時代だったのでしょう。今同じことをやろうとしてもかなり困難に違いありません。
そして、この写真集の元となった二つの写真集を私は見ていませんが、まさに「映画のように」仕上げた乙一さんの仕事も素晴らしいと思いました。
実際に事件の被害者となられた方と関係する方々がいらっしゃいますので「かっこいい」と大声を出すのは憚られますが、それでもこの本を「かっこいい!」と言いたくなります。
2015-6-20
カテゴリー:写真集
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