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#75

これから進めるべき放射能汚染地域の子どもたちの保養


2012-12-29


 先日、北沢タウンホールにて「チェルノブイリから学ぶ福島の子どもの保養」というタイトルで行われたヴャチェスラヴ・マクシンスキーさんの講演に行ってきました。
 マクシンスキーさんはチェルノブイリ原発事故により放射能汚染した汚染地区に住む子どもたちを保養するためベラルーシとドイツにより1992年に設立されたサナトリウム「希望21」の所長で、雑誌DAYS JAPAN編集長でNPO法人「沖縄・球美の里」の理事長でもある広河隆一さんの招きで来日されました。

 保養という言葉、聞いたことがあるでしょうか。

 一般的には「保養所」など、体を休ませることに使われる言葉ですが、放射能汚染地区に住む人たちが、放射能による体への負担を軽減するために放射能汚染の少ない地域へ一時的、あるいは継続的に避難し生活することにも「保養」という言葉を使います。福島第一原発事故においても多くの子どもたちが汚染の少ない地域へ自主的に移り「保養」をしていますが、おそらくマスメディアが原発事故の報道でこの言葉を使うことはほとんど無いと思いますので、そういう意味で使われる「保養」という言葉を知っている人は少ないでしょう。

 マクシンスキーさんはベラルーシにおける子どもたちの「保養」について話してくださいました。

 1986年に発生したチェルノブイリ原発事故により、ベラルーシでは1987年までに約2万4000人が避難し、107の市町村で人が住めなくなりました。当初原発から半径20km圏内だった強制避難区域は30kmにまで拡大されました。
 これらの地域から避難したものの、時間が経つにつれて子どもたちの体には異変が起きます。特に消化器系の病気の患者は、事故前の74倍にまで膨れ上がりました。その他にも、腫瘍、内分泌系、神経系など他の病気にかかる子どもたちも軒並み増加しました。
 また、遺伝子変異が原因の先天的異常も増加し、1986-87年生まれの子どもたちがダウン症の増加のピークでした。

 事故後12年で14歳以下の甲状腺がんの診断の件数は576件、事故後年々増加し、発症ピークは1995-98年、事故前と比べ子どもは86倍、大人は45倍だったそうです。
 その後子どもの発症は減りつつありますが、事故当時の子どもが成長して大人の発症が増加しつつあります。

 国際機関は子どもたちを海外で保養させることを勧め、ベラルーシでは事故後5年以内に汚染地区の子どもたちの保養を検討し始めます。18歳未満の汚染地区に住む子どもたちは年に1~2回、保養する権利を持ち、保養地までの交通費も無料にするという法律が作られ、1991年に発令、1993年から実施し、保養施設が汚染地区の子どもたちの受け入れを始めました。

 1992年にベラルーシとドイツの慈善団体が共同で「希望21」を設立、子どもセンターを建設します。当初は11~14歳の子どもを受け入れていましたが、現在では6~18歳の子どもを受け入れています。
 子どもセンターでは子どもたちは様々なプログラムで規則正しい生活や自然と調和した生活を学び、スポーツなどのクラブ活動で新陳代謝を高めて放射性物質の排出を促します。また精神的なショックの克服やポジティブシンキングを身に着けるなど心理学的な面でもサポートしています。
 食事も汚染の少ない食材を使用、放射性物質の排出を促しやすい野菜や果物などの繊維質の食材を中心とした食事を摂ります。

 こうして子どもたちは24日保養施設で間過ごし、保養の始めと終わりで健康診断しますが、体内の放射性物質の25~30%くらいが減少、95~98%の子どもたちが明らかに健康回復の効果があるそうです。

 これらの費用の約8割は国から賄われ、約2割は海外の慈善団体からの寄付によるものだそうです。当初1件だった保養施設は国家プログラムにより8件増えて現在では9件の保養施設があります。


 そしてこのベラルーシの保養施設をモデルに沖縄県の久米島に急きょNPO法人として立ち上げられられたのが「沖縄・球美の里」という保養施設です。ジャーナリストとしてずっとチェルノブイリ原発事故の影響を取材してきた広河さんだからこそ、このような施設を即座に設立できたと言えるでしょう。
 マクシンスキーさんの講演の後で、広河さんがスライドを用いて沖縄・球美の里の活動報告をしてくれました。福島では外で遊ぶことも土に触れることもできなかった子どもたち。沖縄の地で裸足で海辺を歩いたり土をさわったりすることに子どもたちはとまどったそうですが、すぐに慣れて精一杯沖縄の自然に触れ合ったようです。

 本来ならこのような施設は事故の当事者である電力会社や国が行うべきものなのですが、残念ながら国は逆に避難した人たちを放射能汚された故郷に戻そうとしています。このような保養施設を国の責任で設置するように働きかけなくてはなりません。

***

 ところで、マクシンスキーさんの講演とは別の話ですが、「NPO法人食品と暮らしの安全基金」では事故後これまで3回、ウクライナに行き現地の人たちの健康状況の実態調査を行い(http://tabemono.info/report/chernobyl.html)、その中で、汚染された食品による健康障害がいかに多いかが報告されています。現在の日本の基準(セシウム)である100ベクレル/kgよりはるかに少ない10ベクレル/kgで7割の人に健康障害が起きているというショッキングな内容も報告されています。そしてここでも、放射能汚染された地において保養というのがどれだけ重要なのかを、一人の若い女性に保養を体験してもらいその健康回復の状況をレポートしています。

 原発事故当時官房長官だった枝野さんは「直ちに健康に影響を及ぼすものではない」と言いました。ある意味それは正しかったでしょう。今は影響が無くても、今後これから影響が出るであろうことはこれらチェルノブイリ原発の経験から十分予想はされます。
 現在の基準値以下なら安全と鼓舞するのではなく、既に放射能汚染に対する様々な対策をとった国々の経験や知恵から学ぶのが賢明というものでしょう。国にはいち早く、子どもたちだけでも、汚染地域に住む子どもたちの保養や、放射能汚染していない食物の供給など、対象を子どもたちに限定してでも対策を取ってほしいものです。

沖縄・球美の里の運営は個人の募金で賄われているので、ぜひ多くの人たちに賛同してもらえたらと思います。
NPO法人 沖縄・球美の里 http://kuminosato.net/




カテゴリー:原発気になる人たち


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