#97
ちょっと前の日本の暮らし
中川 誼美 中央公論新社 (2010)
中川さんがこの本で言っている「ちょっと前」とはだいたい昭和中期ぐらいまでのことのようで、いわゆる「白物家電」やテレビなどがそれほど普及しておらず、夏には打ち水したり夕涼みしたり秋には焚き火なんかをする習慣がまだ多く残っていた、今よりもまだまだ自然との接点が多く五感に頼っていた時代。
中川さんはそんな、「ちょっと前の日本の暮らし」を体験できるような宿をつくります。
経営を止めてしまった京都の古い宿屋を買い取り、電化製品は極力無くし、内装もなるべく自然の素材を用い、食事も安全な食材にこだわる。
この京都の宿が軌道に乗った頃、銀座にもお店を出すことを進められて出したところ、こちらも人気を博します。
こんな顛末を中川さんご本人はさらりと書いておられますが、かなりの苦労をなさったのだと思います。
私が興味を持ったところ、それは、もちろん中川さんが提唱する「ちょっと前の日本の暮らしの勧め」もそうですが、それよりも中川さんのその「ちょっと前の日本の暮らし」の実践の意思が意外な形で、しかも、本人の努力ももちろんですが、周りの方達がいろいろ助けてくれたりして実現していく姿でした。
この、中川さんの生き方こそ、「ちょっと前の日本の暮らし」方だったのではないでしょうか。今ほど「自分が自分が」という姿勢ではなく、そこにあるものを利用しながらシンプルに生きることで周りからも与えられる。
中川さんのこの提唱は、古きよき時代のノスタルジーではなく、自分の足元や暮らし方を見つめなおし、行き詰まった現代での生き方へのヒントとして活用するということですね。共感する部分が多くありました。
2012-1-22
カテゴリー:生き方/日本の文化と歴史
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