#107
被災地を歩きながら考えたこと
五十嵐 太郎 みすず書房
五十嵐さんは東北大学で教鞭をとる建築学の教授で、東日本大震災で被災した地域を、建築学の視点でいろいろ考えたことをまとめました。
五十嵐さんは三カ月かけてほとんどの被災地を歩き、更地同然になってしまった街の様子や、波の力によってコンクリートの建物が倒れ、しかも動かされてしまうという前代未聞の光景に圧倒されます。
その中でもわずかに残った建物や、辛うじて被災を逃れ避難所として利用されている建物を観察して、これからの、災害にあっても有効的に利用できる建物や街を思い描きます。そして、災害の記憶を後世に残すしくみをいかにするか、建築に携わる者の役割について、様々なアイデアを出します。
五十嵐さんが提案する、被災建物をそのまま残し災害の記憶を焼き付ける工夫は、これまでの、言い伝えや石碑などの、その災害の凄まじさを伝えるには力不足なツールを補い、災害を視覚的に伝えることで地元の人だけでなく日本中の人たちにもその教訓を共有できる施設になるだろうと思いました。
津波の被害について代々に伝える難しさについては、「津浪と村」という本でも語られていました。ここから下には家を建ててはいけないという石碑が立てられているにもかかわらず、再び人がそこから下にも住んでしまうのです。
自らの仕事場である東北大学も震災の影響を受けて使用できなかった時期もあるようです。それでも「漂流教室」と称して他地域で学ぶような積極的な取り組みをしてきました。
災害直後に思いついたことを手当たり次第にやった感がありますが、そこから徐々に具体的な提案として集約され昇華されてゆくでしょう。自らのフィールドである東北の建築についてあらゆる視点から考えた五十嵐さんの様々なアイデアは、これからの東北の新たなまちづくりの原動力となることと思います。
2012-2-17
カテゴリー:自然環境と災害/まちづくり・コミュニティ
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