#144
SELF AND OTHERS (DVD)
佐藤 真 紀伊國屋書店
4歳で胸椎カリエスという病に冒され、わずか3冊の写真集を自費出版で世に送り36歳で亡くなった牛腸茂雄(ごちょうしげお)という写真家の生い立ちや活動を追ったドキュメンタリーフィルム。
私が牛腸茂雄という写真家に出会ったのはかれこれ20年くらい前、今はもう無いデジャ=ヴュという写真雑誌の特集で彼がとりあげられていたのを見たのが初めてでした。
牛腸さんは1983年に亡くなっているので私が彼の写真に出会った時は彼は既にこの世に居なかったわけですが、一見どうということも無い写真なのに、なぜか引きつけられたのを思い出します。
牛腸さんの残した写真と実験的に作ったフィルム、そして牛腸さんが少年時代育った新潟の故郷と上京して住んだ東京のまちの風景を佐藤さんが幾分露出気味に写して撮った風景、とそれに載せた彼のいくつかの手紙や草稿の朗読をコラージュした作品は、ドキュメンタリーフィルムというよりは牛腸茂雄という作品を形作ったようにも見えました。
彼の撮影した写真の被写体となった人たちの表情は、何とも言えない独特の空気感を作り出しています。
牛腸茂雄という不思議な写真家に気を許しているような、何か心で対話しているような、言葉では表現しがたい表情、空気。
優しい雰囲気の写真ですが、いろいろ実験的な活動に取り組むなど、内に秘めた創作意欲の火は熱く燃えていたようです。
被写体の向こうに独特の淡い世界が透けて見えるような彼の写真の虜になって久しいのですが、このフィルムに載せられた、わずかに残された彼の消えゆきそうな肉声が耳に残ります。
彼という個性のフィルターが世界を優しく見せていたんですね、きっと。
2012-5-18
カテゴリー:芸術論/偉人伝・自伝
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